記事の概要
給与計算の「転記地獄」をゼロにするには、①古い計算ルールをシステムに適合するよう法的に整理すること、②勤怠と給与システムをAPI等で完全連携させることの2つが必要です。システム導入だけでは解決しない根本原因と具体策を社労士が解説します。
こんにちは、社会保険労務士の櫻井です。
従業員が50名を超え、100名近くになってきた製造業の経営者のみなさま。今、貴社のバックオフィスで、システムを導入したのに現場の負担が減らないという「奇妙な現象」は起きていませんか?
本日は、その「本当の理由」と、今すぐできる具体的な解決策を解説いたします。
なぜシステムを入れたのに「転記地獄」が続くのか?
現場が疲弊している最大の理由は、ズバリ「システムを導入したのに、結局肝心な計算はエクセルと人力に頼り切っているから」です。
製造業特有の複雑な手当と手作業の限界
製造業では「日勤・夜勤・2交代」といった複雑なシフトに加え、「今月はAラインの応援に入ったから応援手当」「危険手当」といった独自のルールが多く存在します。
勤怠ソフトからデータをCSVで出力し、別の給与ソフトへ手入力する【システム間の転記地獄】。そして、手当の条件を毎月エクセルで目視照合する【イレギュラーな手作業チェック】。
「1円でも間違えたら労基署に突っ込まれる」というプレッシャーから【恐怖の二重・三重チェック】が発生し、締日の前後は総務の業務が完全にストップしてしまいます。
■関連記事: 【社労士直伝】昇給で未払い残業代が発生!?会社が確認すべき給与ソフト設定と「トリプルパンチ」対策
「ブラックボックス化」の潜在的リスク
なぜこんなことが起きるのでしょうか。理由は、「エクセル時代の計算ルール」をそのまま最新システムに無理やり当てはめようとしているからです。長年の慣習で残っている意味のわからない手当や複雑なルールは、システムで自動化できず、結局手作業によるカスタマイズが必要になります。
これが「〇〇さんしか分からない」というブラックボックス化を招き、その担当者が退職した瞬間に給与が払えなくなるという重大な経営リスクを引き起こすのです。
■関連記事: 【経営リスク】「あの人」が休んだら会社が止まる!給与計算の属人化に潜む恐怖のシナリオ
現場の二度手間を物理的にゼロにする「2つのステップ」
システムをフル活用し、二度手間を解消するには、以下の2つのステップが不可欠です。
ステップ1:古い計算ルールを「システムが計算できる形」へ法的に整理する
まずはボトルネックとなっている手当や計算方法をリストアップし、なぜそれらが必要なのか目的を整理します。「この手当は本当に必要なのか」「システムで自動計算できるシンプルな条件に変更できないか」を検討するのです。
ここで実務上もっとも注意すべきは、労働契約法第9条・第10条に定める「不利益変更」です。ルール変更によって従業員の給与総額が下がる場合、法律違反となる可能性があります。手当を廃止して基本給へ組み込むなどの代償措置を講じ、法的なリスクを回避することが重要です。また、専門家視点では、その手当が割増賃金(残業代)の計算基礎から除外できるか(労働基準法第37条)の整理も併せて行うことで、計算を大幅にシンプルにできます。
ステップ2:勤怠・給与システムの「完全連携」で手入力をゼロに
ルールの整理ができたら、勤怠システムと給与システムの連携を完全にし、「打刻から給与計算までの業務」を自動化します。
多くの企業が、勤怠システムにある集計機能を使い切れていません。ベンダーのサポートサービスも活用し、徹底的にシステム内で勤怠管理と集計が完了するように設定を見直してください。特に、労働基準法第24条の「全額払いの原則」に則り、日々の労働時間を1分単位で正確に自動集計させる設定が必須です。
準備が整えば、勤怠データを給与計算システムへCSVでインポート、あるいはAPI連携(システム同士の直接接続)を行うことで、人間の手入力を1文字も発生させることなく給与計算が完了します。
業務改善でバックオフィスにゆとりを
古いルールの法的整理と、システムの完全連携。この2つに取り組んで、ぜひ業務改善に挑戦していただければと思います。
「複雑なシフトでうまくシステムに乗せられない」「手当の見直しが不利益変更にならないか不安」など、お困りの際は弊社の特設サイトをご覧いただき、いつでも専門家にご相談ください。
勤怠・給与の自動化に関するよくある質問(Q&A)
手当を基本給に組み込む際、従業員全員の同意が必要ですか?
給与総額が下がるなどの「不利益変更」にあたる場合、原則として従業員の個別の同意が必要です。総支給額を維持する代償措置を講じることでスムーズに進めやすくなりますが、事前に専門家への相談を推奨します。
現在使っている古い給与ソフトでも、勤怠システムとAPI連携できますか?
API連携は双方のシステムが機能対応している必要があります。古い給与ソフトでAPI非対応の場合は、CSVデータの出力・取り込み機能を使って手入力(転記)をなくす方法が現実的な第一歩となります。
どうしても打刻時間がルーズになり、1分単位の集計が現場に合いません。どうすればよいですか?
労働基準法上、日々の労働時間は原則1分単位で集計・全額支払いが必要です。ただし、「1ヶ月の総労働時間」に対してのみ、30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げる端数処理であれば、例外的に通達で認められています。
【動画】「現場の二度手間を物理的にゼロにする方法」勤怠・給与の転記地獄の正体
投稿者プロフィール
- ■ 櫻井 智(さくらい さとし)
社会保険労務士/労務・人事の専門家
2017年にベネフィットグループに参画。
労務管理・社会保険・人事制度設計を中心に、
中小企業の「人」に関わる問題を数多く解決してきた。
櫻井の加入により、ベネフィットのサービスはより実践的で厚みのあるものとなっている。




