【落とし穴】残業代を全額払っていても違法?
「うちは未払い残業代なんて1円もありません。1分単位できっちり払っています。」
2026年2月、そんな模範的な会社の社長から相談を受けました。
残業代を正確に計算し、賃金台帳にもきちんと記録している。
本人も「労基署が来ても何も問題はない」と自信満々です。
しかし、私はあえて問いかけました。
「36協定は提出していますか?」
この瞬間、空気が止まりました。
今回は、未払対策済みの企業がハマる「36協定」の罠についてお話します。
残業代の支払いと「残業させる権利」は別物
労働基準法では、
- 1日8時間
- 週40時間
を超えて労働させることは原則禁止です。
多くの経営者が誤解しているのは、「残業代を払えば問題ない」という認識です。
しかし、それは違います。
時間外労働を“例外的に”認めてもらうための手続き
――それが36協定(さぶろくきょうてい)です。
この協定を労働基準監督署へ届け出ていなければ、
- 1分でも残業させた時点で違法
- さらに刑事罰の対象になる可能性もある
という、非常に重いリスクを抱えることになります。
つまり、
- 残業代を払うこと
- 残業させる法的根拠を持つこと
は、まったく別の話なのです。
払っている「証拠」が会社を追い込む、賃金台帳が“違反の証拠”になる瞬間
未払残業対策を徹底している会社ほど、実は危険なケースがあります。
なぜなら、
- 賃金台帳に明確な残業時間
- 正確な残業代の支払記録
が残っているからです。
36協定が未提出の場合、その記録はそのまま、
「協定なしでこれだけ残業させていました」
という動かぬ証拠になります。
ブラック企業のように未払いをしているわけではない。それでも、手続きを怠れば違法。
労基署から見れば、
- ルールを知らずに違反している会社
- 是正指導しやすい会社
になってしまいます。
「払っているから安心」という思い込みが、最大の盲点なのです。
36協定を出していても安心できない理由
「昔、社労士に作ってもらったはず!」
そう安心している会社にも、もう一つの罠があります。
36協定には、明確な上限時間が定められています。
- 原則:月45時間、年360時間
- 特別条項付きでも、厳しい上限あり
この時間を1分でも超えれば、たとえ協定を出していても違法です。
特にありがちなのが、
- 繁忙期だから仕方ない
- 人手不足だからやむを得ない
という理由で、特別条項なしに長時間労働をさせているケース。
「出している=大丈夫」ではありません。
- 協定が有効期限内か
- 実態と合っているか
- 上限を超えていないか
ここまで確認して、初めて“守り”が完成します。
本当のホワイト企業とは何か
今回のポイントは、次の3点です。
- 36協定がなければ、残業代を払っていても違法
- 支払い記録が、そのまま違反の証拠になり得る
- 協定を出していても、上限時間は絶対厳守
「お金」はクリアしている。
しかし「時間」と「手続き」が抜けている。
この状態は、見た目はホワイトでも、法的には非常に不安定です。
トラブルが起きる前に“守り”を固める
労務トラブルは、起きてからでは遅い。
- 協定の未提出
- 内容の更新漏れ
- 実態との不一致
こうした“静かなリスク”は、普段は表面化しません。
しかし、労基署の調査が入った瞬間、一気に問題化します。
残業代を払っている会社こそ、あと一歩の確認が必要です。
「うちは大丈夫だろう」ではなく、
「証明できる状態かどうか」。
これが、これからの強い会社づくりの基準です。
お金だけでなく、ルールと手続きまで整えてこそ、本当の意味でのホワイト企業と言えるのです。
【動画】【落とし穴】残業代を全額払っていても違法!?未払残業対策をしている会社がハマる「36協定」の罠
投稿者プロフィール
- ■ 櫻井 智(さくらい さとし)
社会保険労務士/労務・人事の専門家
2017年にベネフィットグループに参画。
労務管理・社会保険・人事制度設計を中心に、
中小企業の「人」に関わる問題を数多く解決してきた。
櫻井の加入により、ベネフィットのサービスはより実践的で厚みのあるものとなっている。




